暁ゲーム工房の九命題

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このところ就職活動にかまけて,ボドゲ周りのことをサボっていたのでリハビリ記事を書きます←

タイトルの通り「チャンドラーの九命題」の改変形式で,アナログゲームを制作するときの注意点をまとめます.

 

1.順番と勝率は納得できる相関関係に抑えること

ほとんどのアナログゲームはターン制だ.従って「順番による有利不利」が発生する.同じことができる場合,より早く行動したプレイヤーが時間的アドバンテージを得る.囲碁遊戯王を見てわかるように,後攻は不利である.初期資源や立地で勝率の格差を是正しなければならない.ただし,完全に互角にすることは不可能だ.テストプレイを繰り返し,許容できる格差に収めるべし.

2.勝利条件とルールテキストの誤りは許されない

注意が必要である.勝利条件は特に曖昧な解釈があってはならない.名詞には可能な限りゲーム内で定義された用語を使用すること.従って,第一にゲーム中の固有名詞を定義したリストを開示すること.

また,ゲームの進行にかかわらない世界観や背景を説明する叙述に関して,この章は言及しない.

3.登場人物,ゲーム性,世界観は現実的であるべし

コクーンはパルスに浮かぶファルシがクリスタルの力で築いた都市。パルスにはコクーン同様ファルシが存在する。聖府コクーンを統治しパルスに関わる物を排除する。クリスタルはコクーン、パルスの両方に存在する。ファルシはクリスタルを内包しており、人類をパルスから守るためにコクーンを築いた。外なる異物とは聖府にパージされるパルスのファルシが生んだコクーンに属さない物。パージとはコクーン市民をパルスへ追放する聖府の政策。ルシはファルシからビジョンによって伝えられる使命を果たせばクリスタルとなり、果たせないとシ骸になる。召喚獣はルシを救うために現れる。ビジョンとは……

 

ファンタジーを否定したいわけではない.「現実的であれ」とは「ドラゴンやゴブリンで片付けられる説明に貴重な新規プレイヤーの集中力を要求するな」ということである.そういった説明は巻末か付録でやると良い.アナログゲームは小説でも映画でもない.プレイヤーの主体性を燃料にして駆動する娯楽機械である.

4.ゲーム性は緻密に作られ,かつ作品としての面白さが必要

ゲーム性,即ち,何をするゲームか?はアナログゲームにとって欠くべからざる第一の要素である.制作では他の何をも後回しにして追求する部分だ.アートワークの自作が間に合わなければ,外注するのも一つの方法である.

作品としての面白さ,即ち,プレイヤーの人間性に依存しない面白さはこの次に重要である.面白いプレイヤーの存在を前提にした大喜利ゲームは,提供できる面白さを想定しづらく次回作へ向けたアイディアを得ることは難しい.(ゲームそのものが面白かったのか,面白い友人がいたから盛り上がったのか,判断が難しい.その上,面白い友人はセット販売できない).表情筋を失った能面のような友人と無言でプレイしても成立するゲームは,販売後の評価についても得るところが大きい.

5.ゲーム性は単純に,即ち,最終順位の原因が誰にもわかるように

「なぜ勝った(あるいは負けた)のか?」議論の余地があるゲームは良いゲームだ.この意味でジャンケンは最悪だ.ゲームでの行動と順位の相関関係が明示されていれば,「次のゲームではこうしよう」といったリプレイへのモチベーションになるし,「次の手はどうするべきか?」といった戦略を立てる際の指針になるし,「この手が上手かったね」と感想戦やアドバイスができるし,初心者を誘いそのゲームの沼へ沈める際の手引きにもなる.良いことづくめだ.

そのため,プレイヤーが直接決断する行動の効果は短期的な収支について影響するものが望ましい.「5ターン後から資源獲得量に+10%の永続ボーナスを得る」はデジタルでやってくれ.

6.終了は必然的かつ予測可能なものに

どんなに面白いゲームもいつかは終わる.新しく始めるにしろ,別のゲームをするにしろ,いつ終わるのか?は重要である.どうやら現代人は遊ぶ時間が無制限ではないようだ.

どんなに引き伸ばしても,必ず終了までのカウントダウンは進むべきである.(全員が勝ちを放棄してまで引き伸ばす場合は考えなくて良い).出来れば自動的に「残り何ターンです」とアナウンスされるよりも「場の〇〇が無くなったら終了」とするほうが良いジレンマを生む.「××をしたら,〇〇が無くなってゲームが終わる」という構造はプレイヤーを計画的にさせる.〇〇が勝利条件に無関係であれば尚良し.

7.計画か暴力的ランダムかどちらかに

ゲームには少なからずランダムな要素がある.囲碁や将棋は例外だ.重要なのはランダムが全てを台無しにし得る爆弾だと知ることである.10手先まで考え(られるほど情報を開示しておきながら)作戦を立ててもさいころ一つで崩壊するようなゲームは時間の無駄である.そして,プレイヤーは考えることを止める前にゲームを投げる.

秩序だったゲーマーズゲームを作るコツはランダムの後に意思決定を置くことである.カオスに適応する猶予を与えることで,うまく乗り切った達成感を与えられる.(この意味でMTG遊戯王よりも計画的だ).

逆に,混沌を楽しみの核とするなら徹底的にランダムにするべきだ.抵抗の猶予を与えてはいけない.(せーの,どん!終了,次のターン!).山札の中にゲーム終了カードを仕込むとか.ついでに,理不尽な(かつ馬鹿馬鹿しい)ルールで勝敗が決まるならプレイ時間も短くしよう.リプレイ性こそ暴力的ランダムが生き残る道である.

8.負けているプレイヤーには補償が与えられなければならない

勝つことは楽しい.次のゲームがしたくなる.問題は負けたプレイヤーには全く逆の心情が芽生えることである.アナログゲームには電源の代わりに友人が必要だ.かといって接待プレイも控えねばならぬ.ゲームの最後まで順位を隠すやり方は全てのプレイヤーの参加する意欲を維持する仕掛けであるが,1ゲーム限りの誤魔化しだ.そのゲームに対する自分なりの定石を探索する過程はどんなゲームにも通づる面白さの核心であるが,とにかく時間がかかる.面白くなるまで100回の負けを要求するゲームは,どんなに面白くとも普及しないだろう.遊ばれないゲームは存在しないのと同じであるし,見たこともないゲームの面白さは絶対に伝わらない

じゃあ誰にでも勝つチャンスを与えるべきか?もちろんノーだ.桃鉄のような暴力的ランダムなゲームであればともかく,計画性,戦略性を推すゲームでは難しい.

より良い方法はゲームの要所ごとに社会保障を与えることだ.5ターン毎に最下位のプレイヤーにボーナスを与えるとか.それが勝ち筋そのものになってはならない.逆転の芽になるくらいが丁度よいだろう.明示されるとプライドが傷つくというナイーブなプレイヤーに配慮するなら「プレイヤー数-2人の任意の相手に攻撃する」といった効果を増やせば良い.多くの場合,自分と最下位は被害を免れる.これに関連して,個人を攻撃するカードには注意が必要だ.システム的にはキングメーカー問題があり,最悪,ゲームだけでなく友情が破壊される恐れもある.

負けているプレイヤーが負け続けるゲームはモチベーションの維持が難しい.逆転の希望を見せるか,さもなくば別の(システムとして評価しない)形で自己表現に走れるようにするべきである.

9.プレイヤーに対してはフェアプレイを(細則を曖昧にしてはならぬ)

アナログゲームである.数値計算や処理をするのは人間だ.完全には誤りと言えなくとも,解釈が曖昧になる表現は避ける努力が必要である.特に「以上,以下」と「~より多い,少ない」や,「〇〇は~後,××する」と「〇〇が~後,××する」などは頻出する曖昧性だ.デジタルゲームと違い自然言語を使って処理を記述する以上,曖昧性を駆逐することは困難だが努力しよう.

友人にルールを説明するたびに「ここは説明書が間違っていて正しくは~」と訂正させるコストを低く見積もってはいけない

 

以上,具体例に乏しく,説得力に欠ける文章だが草案として公開しておく.

後でいくらでも書き換えられるしな.