「サイコロを振る」と「カードを引く」~確率的に等価な両者の差について~

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あけましておめでとうございます.暁ゲーム工房です.

3月10日に開催されるゲームマーケット2019大阪へ出展します.

今回は当日に販売するゲーム「Creative tavern」
その拡張版「Chef's Special」の紹介……ではなく,表題の通り堅いお話です.

記事書くのサボりすぎて,色々忘れてるのでリハビリです

 

状況設定

どこにでもある普通の6面ダイス1つ,それから1~6の数字が書かれた6枚のカードを良く混ぜて裏向きに重ねて山札にします.

ここで「ダイスを1回振って3が出る確率」「山札から1枚引いて,それが3である確率」はどちらも6分の1です.

引いたカードを毎回山札へ戻して良く混ぜれば,他の数字を引く確率も同じく6分の1.

これはダイスを振り直す行為に相当します.

さて,これら数学的に完全に等価な2つのアクションに違いはあるのでしょうか?

数学的に等価なら違いは無い? これらはアナログ表現の違いに過ぎず,自由にどちらにするかを決めて良い?

いいえ,僕はそうは思いません.

この2つのアクションにはアナログ表現だからこそ,数学的性質の外側に明確な違いがあります

(そしてデジタルゲームでも,たとえプログラムとして全く同じ実装であっても,両者の差はユーザ体験をデザインする上で有用です)

「サイコロを振る」と「カードを引く」の時差

数学的に等価な以上,両者の数学的な差を証明することは出来ません.

どちらもシンプルな一様分布を生成しています.(↓参考図)

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良くある一様分布

けれど,だからと言って両者の差を客観的に測定できないわけではありません.

一様分布に従って「乱数を生成する」から「生成した乱数の値を1つ確認する」までの時差に,両者の違いが現れます.

運命=ダイスを振る

乱数の生成と数字の確認が同時に起こります.

従ってプレイヤーに「今この瞬間に展開が左右される」という感覚を強く与えます.

宿命=カードを引く

乱数の生成から数字の確認までに時差が伴います.

従ってプレイヤーに「既に定められた展開を確認する」という感覚を強く与えます.

 

「運命」と「宿命」のニュアンスの違いがコンポーネントの“質感”に現れているのでしょうか?

乱数生成のギミックとコンポーネントの質感

どちらもおなじ分布に従って生成された乱数ですが,確認までの時差がプレイヤーの印象をガラリと変えています.

ダイスで生成する乱数は賭けを祈らせるときに有用で,カードで生成する乱数は冷静に確率を計算させるときに有用,と僕は考えています.

なので乱数生成のギミックを盛り込むときに材質を選択可能な場合には,勢いで進めてほしい部分にはダイス冷静に計画を立てさせたい部分にはカードを採用するといいでしょう.

(といっても「インカの黄金」よろしくカードでも瞬間沸騰的なゲームはいくらでも作れますが←)

より汎用的な結論としては,乱数生成から確認までのタイムラグを大きくするほど計画性の強いゲームになる,と考えて良さそうです.

雑記

いつの時代も人間は確率を認識するのが苦手で,だからこそゲームは面白いのです……

特に「今判断しろ」なんて詐欺師の常套句ですよね.

ところでこの「祈り=ダイス」と「予測=カード」の違い,世界観的に「魔法」と「科学」に対応させられそうです.

乱数の生成,確認,意思決定の順番で世界観を表現できそうです.

何をするか決める→祈る=魔法(出力の平均高め,分散大きめ)

資源を見積もる→何をするか決める=科学(出力の平均低め,分散小さめ)
とかね.


あ,今週中に拙作の宣伝も始めます.期待しててね.